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2008年10月04日

インターネットリサーチの将来(山川義介)

posted by Yoshisuke Yamakawa

私はいつも経営者の仕事は「方向指示器付きお茶汲みだ」と言っている。そんな事を公言するものだから、元インタースコープFI(現ヤフーバリューインサイト)のYさんが、「じゃあインターネットリサーチは将来どうなると思いますか?」と質問して来た。お前は方向指示器なのだから、方向を指示しろという訳だ。しかし、私はもうインターネットリサーチ会社の経営者ではないので、それは田部さんの仕事だろうと思ったものの、やはり自分の創業した会社の元社員が活躍しており、大きく成長している訳なので自分の考えを明らかにしておいたほうがよいだろうと思い、今日はこの話題を書くことにした。

私は現在ALBERTというレコメンデーションの専門企業の経営している訳だが、元々はインタースコープの事業として「レコメンデーション」は創業前の1999年から平石さんと一緒に考えていた事で、その後もリサーチやデータマイニングのノウハウを活かし、ALBERTのようなシステム開発までリサーチ会社でやってもいいではないかと思っていた。ログ解析や最適化のノウハウがあるのだから、それをエンジンとして販売する所までやればいいじゃないかと思っていた。結局は、様々な事情で外に出て別の会社でやる事になった訳だが、これも一つのインターネットリサーチ会社の方向性の一つだと思っている。

ただ、その時にYさんに答えたのはそういう内容ではなく、「今後のインターネットリサーチは量ではなく質を追求する様になる」と言った。インターネット リサーチは、大幅なコスト削減により、街のラーメン屋さんがメニューを決める時にも使えるサービスだ。これはマクロミル創業者の杉本さんがおっしゃっていた事だが、今までの紙と鉛筆の調査からネット調査への移行は、大きなイノベーションであったし、リサーチそのものの変革であった。

それだけに、2000年当初は抵抗も多く、特に統計数理研究所のO先生とインターネットリサーチ研究会でのバトルは激しいものがあった。しかしこれも、新しいものが出て来る時に通過しなくてはならない登竜門であり、進歩のための抵抗でもあり、結果的には研究も進み理解も深まりよかったのではないかと思う。そういう時代も経てインターネットリサーチ業界も落ち着きを取り戻していると思う。2005年前後からCGMが台頭し、ブログ分析や掲示板情報の分析が流行った。AISASの最後のSが機能するようになると、定量調査などしなくてもネット上のCGMデータを分析すれば何でも分かってしまうから、インターネットリサーチは不要になるという様な乱暴な意見もあったが、私は絶対にそれはないと思っていた。

市場調査には様々な目的や分類があり、社会調査はインターネット調査と相性が良くない事は明らかだし、出現率や認知率などの率を聞く調査と、商品企画のアイデアを抽出する調査では、同じ定量調査だとしても全く目的が違うので、サンプリングの仕方も調査手法も変えなくてはいけない。そのあたりをごっちゃにして話す事はできないが、CGMの分析データから得られる事も多い。しかし、それだけでリサーチが不要になる事はあり得ないし、代替えとい う種類のものではない訳だ。ただ、今までリサーチでしか取れなかったデータが、CGM利用で取れるようになるという事はあり、トータルとしての定量調査の需要は減る可能性はあると思う。また、最近ではデスクリサーチで、かなりの部分が取れてしまう。ヤフーバリューインサイトの超優秀なリサーチャーであるKさんと話していると、「ああそれはここにありますよ」「そのデータはここで売ってますよ」と次々に欲しいデータの在処をを教えてくれる。優秀なリサーチャーというのは、「リサーチしなくていい事」をよく知っているものなのだ。

インターネットリサーチが、量から質へ向かうというのは、量の拡大であったWEB2.0から、質の追求、集約のWEB3.0へという流れにも合致して いるが、モノが売れない、世界的な金融不安で消費が伸びない時代に、消費者の購買行動をもっとサイコロジカルに分析する必要が出て来ていると思う。 AISASに関しては、近々このブログで書こうと思っているが、消費者の購買行動のモデルが、AIDMAからAISASになったかどうかは別として、購買における情報収集や意思決定のメカニズムが、1990年代とは明らかに変化をしている。この時代の変化に、企業のマーケティングは本当に追いついているのだ ろうか。

先日、クチコミセミナーの講師をしたが、WEB3.0時代における「ソーシャルグラフ」という考え方や、インターネットが作り出す新しい「きずな」 が購買行動に与える影響などを、もっと研究する必要が出てくると思う。そういう意味で、インターネットリサーチに限らずだが、市場調査というものが、より人の心に踏み込んだ方向に向かうのではなかろうか。

もう一つの別の視点で考えてみたい。

そもそもマーケティングリサーチにおける定量調査は、仮説を立ててそれを検証するものがほとんどである。出てきた結果を統計的に処理し、仮説を美しく正当化しレポートにするのが仕事と言っても過言ではない(ちょっと言い過ぎか)。専修大学の新井範子先生が、「創発するマーケティング」(共著)の中で、「従来のような、あらかじめ仮説を立て、その仮説を検証していくことに調査の主眼を置く、いわゆる仮説検証型の調査も意味がなくなる。」と述べておられる。所詮人が作った仮説なので、検証される事が目的になっており、検証されやすいものが仮説になっている。分かりやすい因果関係で考えられ、この因果関係を導くのがマーケティングリサーチだとしている。

ここには、関係という視点が足りず、昨今の消費行動を理解するには、より人の関係や情報ネットワークの複雑な連鎖を分析する必要がある。「社会的 ネットワーク分析」という分野にリサーチ会社はもっと真剣に取り組むべきである。誰と誰がどの様な関係、知り合いで、どの様に情報をやりとりし、どの様に意 志決定に影響を与え合っているのか、このあたりをリサーチという手段を用いて可視化しなくてはならない。

インターネットリサーチ会社は(私の反省も含めて)、画面作成のシステム開発には多額の投資をし、効率的な実査を追求する。それはそれで競争優位を築く戦略としてアリだとは思うが、そもそも何をリサーチしなくてはならないか、何を明らかにしなくてはならないかの部分をおざなりにしたシステム開発には意味がない。所詮、人の考えたシステムは、どの企業が行っても同じ様なものであり、後発の企業がよりよいシステムを作るだけだ。結果的にその戦略では差がつかない。

2008年10月04日 12:49