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RICOHの新規事業に学ぶビッグデータ活用の現状と未来

MFPやデジタルカメラなどの光学機器メーカーとして広く認知されているRICOHにおいて、オフィス向けEC事業の「NetRICOH」や、プロジェクションシステム事業、デジタルサイネージ事業など、次々と立ち上がる新規事業のキーパーソンとしてご活躍されている同社VC(ビジュアルコミュニケーション)事業センター デジタルサイネージ事業室室長の花井厚氏に、データ活用の重要性に注目されたきっかけやRICOHにおけるビッグデータ活用の現状と今後の展望について、お話を伺いました。

新規事業の立ち上げには「確信」が必要

上村 花井さんと初めてお目にかかったのはたしか2003年頃でした。NetRICOHのオープンから3年目だったかと思います。その後プロジェクションシステム事業の立ち上げに携わられ、現在はデジタルサイネージ事業も兼任されています。RICOHで「立ち上げ請負人」としてご活躍されている花井さんですが、新規事業立ち上げの極意を伺えますでしょうか。

花井 どうでしょうね(笑)。ひとつ言えるのは、新規事業で0から1を動かすにはものすごくパワーが必要で、「絶対この事業は大きくなる」と確信していないとできないということです。NetRICOHの立ち上げ時にはその確信がありました。

とはいえ、企画が立ち上がった1997年、インターネットでモノを売るなんてことは誰も考えていない、パソコンの普及率は2割以下だしインターネット接続はダイヤルアップの従量制で通信料金も高い、そんな世界でインターネット事業なんて流行するわけがないと皆が思っていたし、初めは自分もそう思っていました。

でもその時の上司に米国出張を命じられて現地に行ってみたら、空港の看板にURLが出ている、ホテルで見たテレビショッピングでも電話番号と並べてURLが出てくる。「インターネットでモノ買う人たちがここにはいる」と感じました。米国では当時既に定額常時接続が当たり前でした。「遅いか早いかはわからないが、日本でもインターネットで買い物する時代は絶対来る」と思えました。帰国後に、「米国でクリスマスシーズンにECの売上が跳ね上がった」というニュースを見て、「これはもう絶対に来る」と確信を得たわけです。

この経験があったので今では新規事業の立ち上げで反対意見があったとしても、1つひとつエビデンスを示していけば、必ず賛同を得られると思って進めることができています。

インターネット事業で気づいた
トランザクションデータの価値

花井 当時インターネット事業を立ち上げて、もう1つわかったことがあります。インターネットでモノを売ったりサービスを提供したりする時に発生する、トランザクションの価値です。

当時上村さんには、NetRICOHの「品ぞろえプロジェクト」に入っていただいていました。この時に様々なデータを分析し、「何が、いつ、誰に売れたか」というトランザクションデータから、お客様のタイプや買い方、発注担当者なのか承認権限者なのかといった属性もわかることに気づきました。インターネットでモノを売るということは、商売であると同時に次のビジネスのための観測気球でもあることに気づいたのです。

そういう視点で会社全体を見渡すと、インターネットの販売データだけではなく、コールセンターへの問い合わせ、複写機の修理履歴、使い方の問い合わせ、セールスマンの提案履歴などさまざまなトランザクションが発生していることに気づきます。これらすべてに価値があると思い始めました。そこでこれらのトランザクションデータを集めて分析できるように、「マルチャンネル推進室」を作りました。あらゆるチャネルのトランザクションデータをビジネスに活用しようという試みです。

サービス事業の肝もトランザクションなのです。どの複写機で誰がどのモードで何枚コピーしたかという、お客様でさえ把握していない情報がRICOHにはあります。3年契約の間に、フロアごとのトランザクションがすべてわかるので、契約更新時にはそのデータをもとにして、コスト削減などの様々な提案ができます。当時はまだIoTとかビッグデータという言葉はありませんでしたが、トランザクションデータを活用してお客様に役立つ提案を行なってきました。

上村 私たちは創業当時から「分析力を武器にデータ活用ソリューションを提供します」と言ってきましたが、花井さんは「これからのメインストリームだね」と仰ってくださっていました。花井さんご自身がデータの価値を深く理解されていたからなのだと思います。

要素技術からランニング収益を得るビジネスへ

上村 RICOHは高い技術力があり、研究開発にも常に積極的に取り組まれています。いつも感じるのは、花井さんはその中で生まれる新技術への理解のレベルが非常に高く、且つその技術をいかに新しいビジネスに繋げるかということを常に思考されているということです。RICOHの中でも要素的技術とビジネスをつなぐような役割を果たしてこられたのではないでしょうか。

花井 それはRICOHがもともとそういうDNAを持ってるんですね。創業者が感光紙でビジネスをはじめて、そこからジアゾコピー機製造、その光学技術を活かしてカメラ、カメラ+感光紙でファクシミリ…というように、ハードウェアに新しい技術を組み合わせてソリューションを作ってきました。

上村 NetRICOHの後にプロジェクションシステム事業をご担当されたのはどのようなきっかけだったのでしょうか。

花井 最初にプロジェクターを発売すると聞いた時は正直「やりたくない」と思いました。既に35社も参入しており、圧倒的なトップメーカーがいる。そして単価もどんどん下がっているレッドオーシャンです。そんな市場に今から入って勝てるだろうかと。

その時社長に「研究所の技術を見て、半年でいいから事業になるかどうか研究してくれ」と言われ、実物を見に行きました。
そこで見た超短焦点プロジェクターは素晴らしい技術だと感じました。壁際に置いても大きく投影できるし説明者もまぶしくない、影が出ない、スペースを取らないなど良いことがたくさんあったのです。

ただ、そのまま事業として成立するかと考えたら、単独では難しい。そこで考えたのが、複写機のようにランニングビジネスを組み立てることです。スティック型のセットトップボックスを利用して、クラウド側からプロジェクターにコンテンツを配信するデジタルサイネージシステムとセットにすることで月額利用料金が入る仕組みを作りました。

サイネージがクラウドにつながっているということは、プロジェクター側の情報もインターネット経由でクラウドに集積できるということです。プロジェクターの電源が入りっぱなしの時は警告したり、ランプの寿命を管理したりといったマネジメントサービスの提供が可能になります。もちろん複写機と同様、次の提案にデータを活用することもできるわけです。

4つの事業をインキュベーション

上村 プロジェクターを扱っているVC(ビジュアルコミュニケーション)事業本部の中で、サイネージ事業の他にも遠隔会議、教育、ヘルスケアと、4つの事業を同時にインキュベーションされています。

花井 遠隔会議はMICE(マイス)の一部ですね、プロジェクターやインタラクティブボード(以下IWB)を使って、企業内の遠隔会議の他、国際会議や展示会、研修旅行をクリエイティブ且つインタラクティブに行なえるというものです。

教育領域でもこの仕組みが活用できます。日本の場合「姉妹校」という制度で、離れた場所の生徒がコミュニケーションすることで学び合う機会があります。大きな画面でお互いの様子を見たり、子供の手元にあるタブレットの画面を同時に共有したりすることで、より理解しやすい授業ができるようになるでしょう。

上村 そこに蓄積されるログはそのまま教育プロセスの記録でもあり、成果と紐づけて分析することで、生徒ごとに最適化された教育を提供する「アクティブラーニング」につなげられる可能性もありますね。

花井 その通りです。またヘルスケア事業は、地域医療連携という国の方針のもと、患者の情報を複数の医療機関で共有するという課題に対応しています。手術をした病院とリハビリ病院の間でビデオカンファレンスによる情報共有ができれば、患者にとっては手術を執刀した医師にその後もフォローしてもらえることで安心できるし、リハビリ病院と執刀医の間で治療のサイクルを回すことができます。

「地域で医療と介護を支える」ということは、病院だけでなく介護施設やヘルパーなど、患者に関与するさまざまな人や組織が情報共有する必要があります。ビジュアルコミュニケーションでこれらをつなぐことが、患者のQOL(quality of life)を上げるために必要になると考えています。

上村 医療・ヘルスケア分野では人工知能や機械学習といったデータサイエンスの活用が急速に進んでいます。MRIや検査機などから取得できる画像データと医師の診断履歴を学習させて、病名や異常箇所を人工知能で特定するシステムの構築依頼などが増えています。医療領域に限らずですが、これまで匠の知見がなければできなかったようなことが、人工知能でカバーできるようになってきました。

ビッグデータ活用の方向性と
データサイエンスへの期待

上村 今後、RICOHにおいてどのようなデータを収集し、どのように活用していきたいといったビジョンはありますか?

花井 いくつもありますね。ひとつは、デジタルサイネージの表示をロケーションや周囲にいる人に合わせて変化させる機能の実装です。カメラやマイクをセンサーにして、周囲に外国人が多いことがわかればその国の言葉で表示するとか、気温や湿度、過去の販売データなどを分析して広告を出し分けるといったことです。

実際実験しているのですが、速乾性のバスマットなどは気温が低い時は全く売れないのに気温が26度を超えた日に店頭サイネージで広告を表示するとよく売れたといった事例が出てきています。こうしたデータを分析することで「場所や状況に合わせて必要とされている情報を表示できるサイネージ」が実現でき、来店数や売上を増やすことができると考えています。

上村 日本に数千店舗あるような小売事業者にも店頭サイネージがかなり普及し始めています。データを分析して全てのサイネージが最適化されれば大きなビジネスインパクトがあるはずです。オムニチャネルマーケティングの一環としてALBERTでもご支援しています。

花井 もう1つは、コミュニケーション機器としてのIWBやプロジェクターの使い方を変えていきたいということです。こうした機器は会議室で使われるのですが、そこで行なわれる会議や打ち合わせはものすごく非効率なことが多いと思います。IWBと人工知能が連動して、会議をファシリテートしてくれれば、改善されると思うのです。何を決めればいいかをレコメンドしてくれたり、スケジュールが決まっていないと指摘してくれたりといった機能が機器の中に隠れていれば、最適な結論と最高のアクションが決まる会議ができそうじゃないですか。当然これは壮大なテーマですが、カメラを使えば人の動きは計測できるし、ビデオ会議の音声も映像も記録できる。IWBの内容も、会話も、すべてデータ化できる。そしてそれを蓄積するデバイスも準備できる。ここまでは全てRICOHでできます。そこから先はALBERTの領域ですよね。

上村 実際に蓄積されたデータを是非分析してみたいですね。会議後のアクションやKPIも追うことができれば、よい会議とダメな会議の特性などもわかるかもしれません。

花井 あとは農業ですね。農作物の生産には、その土地の土壌や気候に合わせて正しく手入れをするスキルを持った農家が必要でしたが、センサーから取得したデータを分析し、最適な栽培プロセスを設計できれば、各段に効率的に食料が作れるようになるでしょう。
実はRICOHは要素技術としてさまざまなセンサー技術を持っています。というのは、複写機というのがセンサーの塊なんです。原稿を光で写し取り、静電気でトナーを紙に定着させ、その後紙詰まりしないように静電気を除去して紙の湿度を適切に保ちながら排出する、という動作のために、光学センサー、温湿度センサーなど多くのセンサーが使われています。こうしたセンシング技術が農業はもちろん様々な分野に役立つと考えています。

教育も、ヘルスケアも、農業もそうですが、人類が発展するための社会課題を解決すれば、その企業は社会から必要とされ、サスティナブルになります。RICOHの創業者は「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という「三愛精神」を唱えましたが、この3つを実現するビジネスを今後も展開していきたいし、今日お話ししたようなアイデアには全てALBERTさんの持たれているデータサイエンスが欠かせないと考えています。

上村 ありがとうございます。今後も両社の技術を生かして社会的価値のあるテーマに取り組んでいければと思います。

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