CROSS TALK

シーズオリエンテッド・アプローチが開く新たな市場と可能性

エヴィクサーは「音」に注目し、音で情報を伝える「音響通信」、メディアとユーザーの接触を示す「ACR(自動コンテンツ認識、Automatic Content Recognition)」の要素技術として、音声フィンガープリント技術、音声ウォーターマーク技術を開発・提供しています。ALBERTとは、音響通信・ACRの特長を生かした協業を目指し、2015年に資本・業務提携を締結しています。今回、特に「音響通信」の持つ可能性について、エヴィクサーの瀧川淳社長にお話を伺いました。

「コンテンツ認識」からスタートした音響通信技術

上村 まず本題に入る前に、「音響通信」の重要な要素技術である、音声ウォーターマーク技術、音声フィンガープリント技術について教えてください。

瀧川 ウォーターマークというのはいわゆる「すかし」ですね。誰でもご存じなのはお札の「すかし」で、お札が本物であることを証明するものです。これを音に応用したのが音声ウォーターマークで、音声信号の中に人間の耳には聞こえない・判別できないように情報を埋め込みます。アプローチとしては昔からある技術でしたが、弊社であらためて性能を高め「音響通信」という技術の一つとして世に出しはじめたのが2015年の終わりごろです。

フィンガープリントは「指紋」と翻訳されます。指紋というのは人間をユニークに識別しうる身体的特徴の一つですが、同様に「音をユニークに識別できる」特徴を抜き出したものが音声フィンガープリント、つまり「音の指紋」という概念です。教師データとして音声フィンガープリントの標本を使用した学習モデルを使えば、特定のテレビ番組や楽曲などを自動で識別することができます。

「スピーカー」から出た音を「マイク」で受信する音響通信

上村 これらの音響通信技術が御社の「Another Track」ソリューションに活かされているわけですね。どんなことができるのでしょうか。

瀧川 スピーカーから流れる音声の中に信号を埋め込むことで、手元のスマートフォンをインストールしたアプリを通して制御します。2016年9月から2017年3月まで明治座で上演された「SAKURA - Japan In The Box」というミュージカルでは、日本語になじみのない外国人観光客向け公演をサポートするスマートフォンアプリを開発しました。上演中に起動していただくと、演者の歌のタイミングに合わせてその歌の歌詞が日本語、英語、中国語、韓国語で表示されます。

上村 Another Trackはどのように使われたのですか?

瀧川 一般のお客様の持ち込んだスマートフォン上のアプリに、ミュージカルの進行に合わせて歌詞を表示するわけですが、そのタイミングのコントロールに使いました。また、歌詞の翻訳だけでなく、合図に合わせてスマートフォンが一斉に光ったり、演出に合わせてスマートフォンにエフェクトを表示したり、スマートフォンの画面を通してAR(拡張現実、 Augmented Reality)を楽しめるようにするといった新しい演出にも使いました。

上村 一般的に劇場内では上演中の電話の着信を防ぐために、モバイル電波をブロックしていますよね。つまり、電波は使えないわけです。その状態で1300人の観客のスマートフォンを一斉に操作するための選択肢として、どのような技術があるでしょうか。

瀧川 もちろん光は演出に影響がありますから使えません。またもし電波(Wi-FiやBluetoothなど)が使えたとしても、海外から持ち込まれる端末はバリエーションが多く、すべての機種で動作するかどうかは分かりません。その点で音響通信はとても優れています。

上村 マイクの付いていないスマートフォンは無いですからね、確実に使えますね。

瀧川 その通りです。あと、音声が流せる設備さえあれば使えるのも大きなメリットです。Another Trackを動かすために明治座で用意したのは放送室の机半分のスペースだけ。館内にアナウンス設備があり、BGM用のスピーカーがありましたので、ノートパソコンからアナウンス設備に音を流しこみました。殆ど既存の設備だけで制御したのです。

上村 新宿のユニカビジョンの事例も画期的ですね。ヤマダ電機LABIの壁面に100平方メートルのサイネージが3機取り付けられていて、西武新宿駅ペペ前広場から見えます。

瀧川 ユニカビジョンではアーティストの新曲や映画の新作のプロモーションとして映像を流すといったことをやっているのですが、2016年12月のAnother Trackリリース時に、ユニカビジョンの「初音ミク」特集と「back number」特集に音で連動したキャンペーンを行ないました。ユニカビジョン前でAnother Trackのスマートフォンアプリを起動すると、音響通信技術でユニカビジョンの画面とスマートフォンが同期し、スマートフォン側ではイヤホンで高品質の音を聞けるという仕組みです。ライブさながらの体験が出るということで評判が良いですね。

この場所はJRの線路と靖国通りに面しているためかなり騒音があるのですが、条例で街頭ビジョンから出力できる音量レベルに制限があって、あまり大きな音が出せません。でも、音楽で訴求する広告ですからいい音で聞かせたい。この課題に、Another Trackで対応しました。

音響通信は高精度なセンサーになる

上村 ALBERTでご相談をいただくビッグデータ活用プロジェクトでは、訪日外国人をテーマにした課題がとても増えています。外国人の行動を予測してマーケティングに活かしたい、というものですね。データ収集の中心になるデバイスはスマートフォンです。

瀧川 スマートフォンでは、GPSやWi-Fiスポットを利用して位置情報は分かりますが、そこでどんなコンテンツに触れたかはわかりません。ここにAnother Trackを入れることで、「どこで」に加えて「何を見たか」も捉えることができます。

また、音響通信技術の提供先として最近増えているのが、IoTデバイスです。音で情報が伝達できるということは、その音が聞こえる範囲に相手がいるということですから、「距離」の情報も含まれるわけです。到達距離は音量で調整できるし、指向性を持たせることで方向を知ることもできます。つまり、音が届く「音場」の設計によって、情報収集の粒度を自由に変えられるのです。音にさまざまな技術を組み合わせることで高精度なソリューションが可能になるという、他にはない特徴だといえます。

スマートフォンをハブに、
コンテンツ視聴と行動履歴がつながる

上村 サイネージと連動できるということは、当然放送コンテンツとの連動も可能ですね。

瀧川 テレビの前にスマートフォンを置き、視聴されているコンテンツの音声から高速に特徴を抽出し、あらかじめ持っている教師データと照合して、見ている番組やCMを特定するということをやっています。自動的にコンテンツを認識する技術ですから、ACR(Automatic Content Recognition)と名付けています。スマートフォンをハブにすることで、誰が、いつ、何を見ていたということがリアルタイムに把握できます。

上村 個人の番組やCMの視聴データと、その人の属性や行動データが紐づけられるようになると、どんな人がどんなコンテンツを見て、どのような行動をしたか、までつなげて分析できるようになります。放送やWeb上でのコンテンツ接触がオフラインでの行動にどのような影響を与えるか、O2Oマーケティングには強力な武器になりますね。

瀧川 CMを1回しか見たことがないか10回見たことがあるかで、その商品とWebで接触したときの印象や行動は違ってくると思うんです。たとえば「4回以上CM視聴した人にだけWeb広告を出す」ということでコンバージョン率を上げるといったことが可能になるでしょう。工夫次第で画期的な広告提案が可能になるのではないかと思っています。

先ほどご紹介した明治座やユニカビジョンの例はどちらかといえば演出として楽しんでいただくことが主眼でしたが、その裏には「その場所に来た」というログが残ります。広告の効果として、実際に足を運んでいただけているかどうかも検証できるわけです。

明治座の事例でもお話ししましたが、音響通信の大きな特徴として「新たな設備が不要」ということがあります。スピーカーさえあればどこでも企画が動かせる汎用性は、この技術を普及するうえで大きな強みになります。既にある店舗のBGMなどをキーにすることで、オフラインの店舗に人が来たことを確実に捕捉できます。その際ビーコンなどの機器を設置する必要もありません。

新しい要素技術を世の中に伝える苦労

上村 ALBERTの事業でも感じることがありますが、エヴィクサーのように要素技術からビジネスへと応用していくには技術の有用性や活用方法をクライアントに理解してもらうために啓蒙していかなくてはいけません。瀧川さんはそういう「世の中に伝える苦労」って感じられていますか?

瀧川 ほとんどがその苦労といっていいんじゃないですか(笑)。Another Trackというエンジニアリング・ブランドを立ち上げたというお話をしましたが、「インテル、入ってる」的に、当たり前にスマートフォンに入って、誰でも使えるというところまで取り組まないとダメだと思っています。

ユーザーにとっては、音なのか電波なのかなんて正直どうでもいいことなんです。でも例えば、「Another Track」のロゴを見た時にスマートフォンを立ち上げれば翻訳ができる、というイメージがしっかり定着すれば、ユーザーの行動を変えることができます。

我々はQRコードを見た瞬間、「スマートフォンをかざせば情報が得られる」ということがわかりますよね。QRコード自体を見てもただの模様にしか見えないけれども、「QRコード」というものが「かざすと情報が得られる」というイメージに直結しています。

でも音は目に見えない。QRコードなら「かざす」というアクションがセットでできるけど、目に見えない音に対して何をすればいいか、ということまで含めて提案しなくてはいけません。それはとても大変なことです。

瀧川 当社の音響通信技術が最初に普及したのは、映画館内での障がい者向けバリアフリー上映サービスなんです。視覚障がい者の方とシンポジウムでいっしょに登壇させていただく機会があったのですが、その方はご自身の趣味を「映画を観ること」だと普通に言える世の中になってきたってとても喜んでいました。それまで専用端末を使ったサービスしかなくバリアフリー上映がとても限定的だったのに対して、当社が関係パートナーと取り組むスマートフォンアプリやウェアラブルデバイスを使ったサービスは、全国の映画館でご自身のデバイスを持ち込むことによりバリアフリー上映を実現します。全国の映画館で一律のサービスを提供できるのは、まさに音響通信の特長である既設のスピーカーを活用しているためで、映画の音声をスマートフォンのマイクで聞き取り、映画の進行と同期した音声ガイドの再生や字幕表示を実現します。映画館に特別な設備を必要とせず、モバイル電波をブロックしたまま機内モードで、汎用的なスマートフォンでバリアフリー上映を実現したことで、対応する映画作品がどんどん増えています。

障がい者の方が映画を観るニーズがそこまで高いとは思っていませんでした。ここまでくると、ニーズではなくウォンツですよね。この時点ではマネタイズの方法など全く見えていなかったのですが、「困っている人を助けるためにソリューションを提供したい」という思いで情熱をもって開発しました。

シーズオリエンテッドなアプローチからマネタイズするのは簡単なことではありませんが、ユーザーが確実に新しいベネフィットを得られるという強い確信があれば後からついてくるものだと思っています。

上村 我々も全く同じです。技術をどうビジネスに応用すればクライアントの経営課題を解決できるかについて、こちらから伝えなくてはいけないし、クライアントの役に立つと信じているからこそ積極的にR&Dを行ない技術を磨いています。

上村 最後に、ALBERTに対してどのような期待をいただいているか、お聞かせください。

瀧川 我々よりもサービスレイヤーに近い分野で貪欲にビジネスを開拓されているので、我々からすると思わぬお客様をご紹介いただくこともあります。よりユーザーに近い目線で、且つ高いレベルで技術を理解されているので厳しいことも率直に言っていただける、良いパートナーでいられればと思っています。

上村 音響通信とビッグデータ活用は非常に相性が良いと思います。今後も両社の技術で可画期的なソリューションを提供していきたいですね。

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